【特集】“この先生と会ってみたい”
イシュラン編集長インタビュー 木下貴之先生

[木下先生写真]

イシュランでは毎年、“Warm30”と称して、「コミュニケーション・タイプの投票」「感想の投稿」「サンキューレターの投函」をイシュラン独自の観点でポイント換算した上位30名の先生を、患者さんやご家族との間でポジティブな関係を築くことに特に成功している先生方として発表しています。

「日本の乳がん治療医 Warm30」は、これまで、2016年下期、2017年、2018年と3回にわたり実施してきましたが、3回とも圧倒的なポイントの高さでランクインされている木下貴之先生(東京医療センター〈2018年度までのご所属は国立がん研究センター中央病院〉)に、イシュラン編集長の鈴木が直接お会いして、お話を伺ってきました。

鈴木

この度は、お忙しい中、インタビューを受けていただき、ありがとうございます。

「イシュラン」の存在は、いつどのようにお知りになりましたか?

木下

2〜3年前の“Warm30”がきっかけかな。Web検索で自分の名前入れると、イシュランのサイトが出てきますしね。あと、時々いただくサンキューレター。ハガキ形式だったと思うけど、あれは見てますよ。

鈴木

はい、ハガキですね。以前は世界遺産の和紙でできたもので送っていました。最近ちょっと普通のハガキになってしまったのですが、見ていただけているのですね。患者さんからの「サンキューレター」はどのように受け止められていますか?

木下

素直に嬉しいですよ。病院の投書とか書き込みは稀にあるけれど、それと比べても直接お葉書いただくのはとっても良い。あと、患者さんからコメントもいただいているみたいだけど、あれも良いですね。投票だけよりも言葉もあったほうがわかりやすい。リーダー型とか学究型とかで投票があるけれど、あれだけだと患者さんにとって良いかどうかわからないので。

鈴木

そのコミュニケーション・タイプの投票ですが、先生は確かに「リーダー型」と「学究型」が圧倒的に多く、「聴き役型」と「話し好き型」は少ないですが、ご自身ではどう思われていますか? ちなみに、投票総数は全国の先生の中で一番多いです。

木下

いっぱい手術したからねえ。人間的にはよくない。話しないし聞かないというタイプで親しみはなさそうな感じだね(笑)

前いた施設(国立がん研究センター中央病院)での診療スタイルが私のスタイル。「学究型」というのは、科学的な情報を共有して患者さんと一緒に考えていくところがあるからかな。がんセンターという病院のイメージもあるのかも。選択肢だけ与えても患者さんが戸惑うこともある。だからあなたにはこれが良いという意見は常に考えて伝えるので、「リーダー型」なのかな。ただ選択肢を羅列するだけだと、患者さんで決められるわけない。経験や患者さんの背景からこれが良いんじゃないですかというのがリーダー。

鈴木

がんセンターならではの難しさみたいなものはありましたか?

木下

がんセンターの患者さんは勉強しているから、ガイドラインの先の話を聞きたくて来る。何を本当に求められているかを判断するのは、難しいですよね。1回や2回で素早く把握しないといけないし。診察でモニターを見ている時間は多くなってしまうけど、ドアが開いた瞬間の表情とか、感覚を研ぎ澄まして観察している。だから聞いていない、話していないと思われているのかな(笑) 患者さんの話をいっぱい聞いてもいいけれど、同じことを繰り返すだけになることも多いからね。聴き役だけじゃダメ。

鈴木

日常の診療の中で、気をつけられていることはありますか? お若い頃と比べて、患者さんへの接し方が変わってきた点などあるのでしょうか?

木下

変わったこと、一つありますね。研修医の時に患者さんから「先生、回診の時に足が出口を向いていましたよ」と注意されたことがあって。患者さんは、私たちの頭の先から足の先まで見て、気持ちを推察されるんだということを気づかされました。なので、まず一番奥のベッドまで行くようにしています。

早く終わらせたいとか思っていると、細かなところに出ちゃう。そういうところが出ないように、患者さんには向き合う。言葉の量ではない。足の向き・目の向きだけでなく、使う言葉も含めて色々なことが、包容力があるとか安心感とかにつながる。我々の職業だけではないでしょうけど。

もう一つが、担当を変わるときの話。自分が初診で診たけど、別のベテランの先生が主治医になって手術して、5年くらい経ってからその先生がリタイアして引き継いだ患者さんがいた。その時に言われたのが「先生あの時はショックだったんですよ。私たちはカルガモの子供と一緒で、病気になって最初に信頼した人に盲目的についていくもの。そこで担当の先生が変わってショックだったの」という言葉。なので、担当が変わるときは、きっちり引き継いで、自分と同じように安心できるような人しかいないんだよというようなフォローは入れますね。

鈴木

乳がん患者さんならではというようなことはありますか?

木下

最初のうちは情報を持ちすぎて、かなり混乱している患者さんがいる。そこの交通整理をしてあげる必要があるのが乳がんの特徴でしょうね。

患者さんの背景・病状によって大事なことの順番がある。

早期の方だと、そんなに犠牲にすることなく治ってくれるけど、色々そこまで考えなくてもいいのに先々のことまで心配して、「転移したらこうなるんですよね」みたいになりがち。そういう人には、まず最初の一歩を踏み間違えないようにと。もう少し進んだ方で多方面の治療が必要な方は、逆にQOL系の情報に気を取られて治療そのものが進まないこともある。

なので、これとこれだけは少なくともやりましょうねと、今必要なものを整理してあげるのが大事。その先のことは、やってみてから考えましょうねと。一歩目からコケちゃダメだよね。確実に一歩目をやるための治療方針をちゃんと説明する。

そうなってきたのは長年の経験だろうね。患者さんの言葉が積み重なって。

鈴木

“Warm 30”に選出されることについては、どのように感じられているでしょうか?

木下

ありがとうございますしかない。患者さんもよく到達できるよね。どうやって入るの?

鈴木

先生もご自身のお名前を検索されたみたいですが、同じように患者さんも主治医の個人名で検索してサイトに入ってくるケースが多いですね。

木下

なるほど。いずれにしても、患者さんの声で選ばれるというのはありがたいですよ。週刊誌の名医リストとかあるけど、どこの医局に紐づくかでも変わってくるから。純粋に患者さんのアクションから作られるというのは、“暖かい”ですよね。

でも、今年はダメかもね。管理職になって外来も手術も週1になったから(笑)

鈴木

「イシュラン」について、他サイトと比べ良い点や、改善すべきと思われる点はありますか?

木下

患者さんは「乳がん 名医」とかで検索してくるよね。そうした検索をしたら、このサイトは上がってくるの?

鈴木

はい。Googleさんは検索ロジックをどんどん変えられていて、例のWELQ問題の後の変更で我々のサイトも全く上がらなくなってしまった時期が続いていたのですが、最近また上がってくるようになってきました。

(※WELQ問題:医療情報サイトWELQが不正確な記事を多数掲載し、2016年ごろのGoogleで上位に表示されていた問題)
木下

それは素晴らしい。面白いのは、患者さんの声ベースで比較的ニュートラルな感じで作られているところ。平等感がある。“名医”でなく“Warm”と言っているのがいいなあ。テレビで名医とされていても実はプロフェッショナルじゃない人が出ている時もある。それよりこちらの方が私たちとしては面白い。今日こうやって来ていただいているけれど、医者側の声が出ると、患者さんにもより良いんじゃないかな。

鈴木

ありがとうございます。今回が初の試みなのですが、もっと広げていこうと思います。最後に、患者とのコミュニケーションについて、後輩の若手医師に対して、アドバイスが一つあるとすると、どんなことでしょうか?

木下

患者さんからは「先生のご家族や奥さんだったらどういう治療しますか?」とよく聞かれる。基本的に私が言っているのは、あなたを身内の人とか奥さんと区別することなく、治療方針は一緒ですと。ラジオ波やっているけど、あれは最初はひどい治療と思っていた。

(※ラジオ波:切らない乳がん治療の「ラジオ波熱焼灼療法」)
鈴木

先日のがん治療学会の口演で発表されていた治療法ですね。

木下

そう、そう。自費診療で様々な施設で行われていた時期で、適応もコントロールされることなくあちこちで不幸な流れになった方が、がんセンターとか大きい病院に来ていた。

それをやめさせるために臨床研究として国立がんセンターで始めて、わざわざクリニックでやらなくてもがんセンターでできるということになって収まった。

研究が進んで、ある一部の人には適応を守れば良い治療だということがわかってきて、ここ(東京医療センター)でも引き続きやっているのだけど、その基準としては、自分の身内でできる治療でないとやらないということ。

自分の医療のレベルをそういうレベルに持ち上げることが大事。そのためには、乳がんのように治療ガイドラインがしっかりしている疾患だけでなく、そうでない幅広い知識、治療での“馬力”が必要とされる疾患の経験をしてほしい。ガイドラインの範囲内でしかできない治療だけで止まっていたら、大した医者になれない。専門医取ることに皆さん興味持っているけど、それまでもっとジェネラルに救急も含めて幅広く診てほしいですね。

私も実は好きでこの道に入ったわけではなく、大腸がんをやりたいと思っていたのが乳がんをやる人が他におらず、失意の中で20代後半で始めたもの。だから、何が幸いするかはわからない。20代で数年しか診療経験ない中でこれしかやらないですって言っている方が、変。なんでも食べて、まずいと思っていたものが美味しいと気づくことがあるよと。

鈴木

医師以外の若者にもぜひ聞かせたい言葉ですね。改めまして今日はありがとうございました。おかげさまで、イシュランを始めてよかったなと思える言葉を頂くことができました。


Warm30 はこちらから